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福岡地方裁判所 昭和34年(ヨ)470号 判決 1961年5月19日

申請人 宮園政弘 外五名

被申請人 西日本鉄道株式会社

主文

申請人らの本件申請はこれを却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

申請人ら訴訟代理人は「申請人らが、被申請人に対し、雇傭契約上の権利を有する地位を仮に定める。」との判決を求め、

被申請人訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求めた。

第二、申請の理由

一、被申請人は、肩書地に本店を置き、小倉市砂津三六〇番地に北九州営業局(以下単に営業局という)を、福岡市、久留米市、飯塚市にそれぞれ営業部を有し、陸上運輸等を営業目的とする株式会社である。申請人らは、被申請人に期限の定めなく雇傭されている従業員で、被申請人に雇傭されている従業員及び大会で承認された者で組織している西日本鉄道労働組合(以下単に組合という)の組合員である。

二、被申請人は昭和三四年一二月二日附で申請人らに対して懲戒解雇の意思表示をなしたとして、以後申請人らを従業員として取り扱わず、その就労を拒否している。

三、申請人らは、被申請人を相手に解雇無効確認の本案訴訟を提起すべく準備中であるが、その判決確定を待つていると将来回復し難い損害を蒙るおそれがあるので、本件仮処分申請に及んだ。

第三、被申請人の答弁および抗弁。

一、申請人らの申請の理由一、記載の事実中申請人らが現在も被申請人に雇傭されている従業員であり組合の組合員であることは否認し、その余の事実を認める。

申請の理由二、記載の事実は認める。

申請の理由三、記載の事実は否認する。

二、被申請人が申請人らに対して昭和三四年一二月二日附でなした懲戒解雇は、それぞれ次の理由によるものである。

(一)  申請人宮園、同刀根

1 いづれも昭和三四年七月一八日、集団欠勤の共同謀議に参画し、引続いて山猫争議を指導した。

右の行為は、それぞれ就業規則第五七条第四号第一四号、第五八号第一〇号第一一号に該当する。

(二)  申請人蔵本

1 同年七月一八日、集団欠勤の共同謀議に参画し、分会長として山猫争議を指導した。

2 同日、古賀健次、御手洗光男、穴見秀夫に欠勤を強要し更に到津自動車営業所(以下単に営業所という)所属従業員多数に対し、欠勤するようそそのかし、扇動した。

3 同月一九日、小倉自動車分会を扇動し、小倉営業所が運行する今井祇園の臨時輸送を拒否させようとした。

4 同日、営業所森田所長(以下森田所長という)が慰労休暇を認めなかつたこと、欠勤事由を聞いたことを理由に森田所長、柏木主任を吊し上げた。

5 同日、三井年弘、竹中寅勝、穴見秀夫、武井勉、尾崎六男に対する乗務命令を一括して拒否した。

6 同月二〇日、申請人野村、同大屋に対する乗務命令を代つて拒否した。

以上の行為はそれぞれ就業規則第五八条第二号第三号、第五七条第四号第一四号第五八条第一〇号第一一号に該当する。

(三)  申請人野村

1 同月一八日、共同謀議に参画した。

2 同日、高島軍喜、落合薫、伊藤進に欠勤を強要し、岡本政雄、古賀親義、松山春男に欠勤を強要しようとした。更に営業所々属従業員の多数に対し、欠勤するようそそのかし、扇動した。

3 同月一九日、小倉自動車分会を扇動し、小倉営業所が運行する今井祇園の臨時輸送を拒否させようとした。

4 同日、三井年弘、竹中寅勝、穴見秀夫、武井勉、尾崎六男に対する乗務命令を一括して拒否した。

5 同月二〇日、予備勤務中職場を放棄し、再三乗務を命ぜられたが応じなかつた。

以上の行為は、それぞれ就業規則第五八条第二号第三号、第五七条第一号第四号第一四号、第五八条第一〇号第一一号に該当する。

(四)  申請人竹中は、

1 同月一八日、共同謀議に参画した。

2 同日、高島軍喜、伊藤進、落合薫、古賀健次、大井嶋吉に欠勤を強要し、松山春男に欠勤を強要しようとした。

3 同月一九日、虚偽の理由で欠勤を申出、営業所にいたが森田所長の乗務命令に服しなかつた。

4 同月二〇日、到津電車分会を扇動して山猫争議を支援させようとした。

5 同日、予備勤務中職場を放棄し、再三乗務を命ぜられたが応じなかつた。

6 同月一九日、八幡、戸畑、到津(電車)分会を扇動して山猫争議を支援させようとした。

以上の行為はそれぞれ就業規則第五八条第二号第三号、第五七条第一号第四号第一四号、第五八条第一〇号第一一号に該当する。

(五)  申請人大屋

1 同月一八日、共同謀議に参画した。

2 同日、高島軍喜、伊藤進、落合薫に欠勤を強要し、原昭一、松山春男に欠勤を強要しようとした。

3 同月一九日、営業局力丸課長、竹島課長の乗務命令を拒否した。

4 同月二〇日、予備勤務中職場を放棄し、再三乗務を命ぜられたが応じなかつた。

以上の行為はそれぞれ就業規則第五八条第二号第三号、第五七条第一号第四号第一四号、第五八条第一〇号第一一号に該当する。

なお(一)ないし(五)の各1の共同謀議とは、申請人らが同月一八日一九時三〇分頃営業局応接室に集合して、同月一九日被申請人会社が運行を予定していた今井祇園臨時輸送を阻止するため、営業所の同月一九日の勤務者を欠勤させることに決め、その方法について話し合つた事実をいうものであり、

(一)ないし(五)の1および(四)の6にいう山猫争議とは、同月一九日運行予定の今井祇園臨時輸送を阻止するため、申請人らが組合規約に定める手続によらず、また組合の指令に基かないで当日の勤務者二七名を正当な理由がないのにかゝわらず欠勤させ、この結果営業所における今井祇園臨時輸送及びダイヤ七系統の欠行を惹起した事実をいうものである。

三、被申請人は、労働協約第三二条第三三条に基き、組合に対し昭和三四年八月三日申請人らに対する懲戒処分に関し労使協議会開催の申入れをなし、その後八回の協議会を重ねる外、労使合同調査委員会を設けて事実調査を行い、慎重審議の上同年一二月二日申請人らの解雇を承認する旨組合執行委員長の正式通告を受け、同日附で申請人らに対し解雇の意思表示をなしたものである。

第四、抗弁に対する答弁および再抗弁

一、組合の組織並びに申請人らの組合役職

(一)  組合は、単一労働組合(組合員数、昭和三四年七月当時約一二、〇〇〇名)であり、その組織は、決議機関として大会(最高の決議機関で、会計監査委員を除く役員、中央委員、代議員をもつて構成)および中央委員会(大会から次の大会までの決議機関であつて、大会に対して責任を負い、大会附議事項を除き一切の組合業務を審議決定する)があり、執行機関として執行委員会(大会および中央委員会の決議事項ならびに緊急業務を処理執行し、執行委員長、副執行委員長、書記長、支部執行委員長、中央執行委員及び支部執行委員をもつて構成、中央執行委員会(執行委員会から委任された業務を処理執行し、執行委員長、副執行委員長、書記長、中央執行委員を以つて構成)がある。福岡、久留米北九州にはそれぞれ地区支部がおかれ、北九州地区支部(以下単に支部という)の組合員数は昭和三四年七月当時約三、三〇〇名であつた。支部には議決機関として支部委員会(当該支部執行委員、当該支部中央委員及び当該支部委員をもつて構成するが、大会及び中央委員会の決定には拘束される)が、執行機関として支部執行委員会(執行委員会の委任事項、支部委員会の決議事項及び緊急業務を処理執行し、支部執行委員長及び支部執行委員を以つて構成)がある。各職場には分会が置かれ、決議機関として分会大会(当該分会の全組合員で構成し、分会会則改正などのほか、分会に重大な影響を及ぼすものが附議されるが、大会、中央委員会、支部委員会の決定には拘束される)が、執行機関として分会委員会(分会大会に次ぐ決議機関として大会に対して責任を負い、支部執行委員長からの指示事項及び分会大会での決議事項を処理し、分会の組合業務を遂行し、当該分会の中央委員、支部委員及び分会委員をもつて構成)がある、分会委員は組合員三〇名に一名の割合で選出され、昭和三四年七月当時到津自動車分会(以下単に分会という)では、分会委員会の構成員は一四名であり、中央委員二名、支部委員四名、分会委員六名、分会青婦人部長各一名で構成されていた。右のほか、各支部ごとに分会長会議がある。分会長会議は支部執行委員、支部管内の分会長をもつて構成し、必要に応じて随時開かれることになつている。

更に労働協約の運用を円滑にし、紛議の予防調整をはかり組合、被申請人間の関係を円滑にする目的をもつて労使代表同数の委員をもつて構成する労使協議会(中央労使協議会と支部労使協議会)がある。

(二)  昭和三四年七月当時の申請人らの組合役職は次のとおりである。

1 申請人 宮園 小倉自動車分会所属、北九州支部執行委員、青年婦人部長、組合専従。

2 同刀根    到津電車分会所属、北九州支部執行委員、事務長、組合専従。

3 同蔵本    到津自動車分会所属、同分会長、中央委員。

4 同野村    到津自動車分会所属、同副分会長、中央委員。

5 同竹中    同分会所属、同分会調査部長、支部委員。

6 同大屋    同分会所属、同分会書記長、支部委員。

二、本件事件の原因(事件の経緯)

(一)  昭和三四年七月一四日、営業所に被申請人会社の本社より一〇名余りの人が来て業務上の立入検査を行い、その後森田営業所長が営業局に呼ばれ改善を要する点として種々指摘をうけ、同所長が同日午後二時頃営業所に帰つて申請人野村に対し営業局で指摘された内容を説明の上その改善を要求した。その指摘事項の中には、(イ)遅刻の取扱い、(ロ)慰労休暇(年次有給休暇)の取扱い、(ハ)出勤禁止者の宿泊所利用禁止、(ニ)自動車車輌のドア開けのやり方、(ホ)分会掲示板、分会旗の取扱い等分会組合員の労働条件、組合運動に関係する事項が含まれているところから申請人野村は、直ちに組合本部にいた申請人蔵本に電話連絡の上、分会でこの問題を協議した結果従来営業所において慣行として行われていた事項を一挙に廃止し、組合運動にまで干渉する様な指摘は立入検査としては行き過ぎであるとの結論に達した。

(二)  翌一五日午前中分会は支部に連絡をとり、右問題について北九州支部労使協議会で協議してもらうことにした。そこで、同日午後二時より四時三〇分頃まで営業所立入検査の指摘事項につき北九州支部労使協議会が持たれ(申請人、宮園、蔵本、野村、大屋ほか四名、計八名が組合側委員として出席)、その結果右立入検査の責任者である本社の小川営業課長と後日営業所においてこの問題の処理方法について話し合うことでは、双方の意見が一致した。しかし遅刻、慰労休暇の取扱いについて被申請人側委員は直ちに指摘どおりの実施を主張し、小川課長との話し合い迄は従来通りの慣行に従うことを主張する組合側と対立し、この点について労使双方の意見が対立したまま労使協議会は打ちきられた。

(三)  同月一七日午前一〇時頃より一二時頃迄支部事務所において分会長会議が開催された折、分会長代理として出席した申請人野村がその席上右立入検査をめぐる諸問題について報告し、被申請人が規則どおりのことを要求するなら組合も規則どおりにやろうと話し合われた。

同日午後二時頃森田所長より申請人蔵本に対して同月一九日の行橋市の今井祇園のため営業所から応援車一台を出して貰いたいと申入があつた。申請人蔵本は、右の様な諸規則遵守の話し合いがなされたこと、および同月一九日には営業所から貸切自動車三台が出るので人員も車輌も不足しているからとの理由により右申入れを拒否した。

三、被申請人主張の解雇理由について

(一)  共同謀議並びに山猫争議について(申請人らの各解雇理由(1)、申請人竹中の同(4))

申請人らが被申請人主張の日に営業局応接室において話し合つたことは認めるが、それは左のとおりの経緯、内容のものであり、被申請人主張の如く申請人らが集団欠勤の共同謀議をなし、申請人宮園、刀根、蔵本が山猫争議を指導したことはない。

(1) 七月一八日、申請人蔵本、野村、大屋は、前記立入検査および今井祇園の臨時ダイヤの問題について北九州支部労使協議会の開催を要請するため支部事務所に行つたが、支部執行委員が申請人宮園だけしかいなかつたので、労使協議会を開いて貰うことができなかつた。そこで申請人宮園と共に、営業局に今井祇園臨時ダイヤの問題について交渉を申入れ直ちに交渉が始まつた。右申請人らは同月一九日当日貸切自動車の予定のあることや、人員、車輌の不足を説明して分会から今井祇園に自動車一台を廻すことは、できないと主張し、営業局側は、営業所の人、車の配置状況から当日は公休者が出勤しなくとも一台位は出せるはずだと反論し、組合が了解しなくても臨時を一台出すと主張し、意見は一致せず、交渉はもの別れとなつた。その後右申請人らは再度交渉を申入れ、申請人刀根も加わり同日午後六時頃より約三〇分間話し合いがなされたが、双方の言い分は前同様の対立のまゝ、交渉は決裂した。

(2) 同日午後六時四〇分頃右交渉の成り行きを心配した分会所属組合員約一五名が営業局に来た。右申請人らはその際共に来た申請人竹中、申請外御手洗らを加え、営業局応接室で、経過を報告し、双方の言分を検討し、今後の対策を協議した結果次のとおり全員意見の一致をみた。

イ 労働協約第九八条によると、被申請人が臨時に自動車を運行するときは「実施前に組合の了解を得る」ことになつているが今井祇園に営業所から、臨時自動車一台を廻すことに組合は了解しない。

ロ 一九日は公休者二〇名余りの内七名に対して出勤命令が出ているが、被申請人は公休出勤者を出さなくても人員が足りると主張し、また当時労使間に労働基準法第三六条による休日時間外労働協定が締結されていないので公休出勤者に右違法な業務命令を拒否するよう協力を求め、分会は会社が今井祇園に臨時自動車を出すことになんらの協力もしない。

(3) 右話し合いをした直後、支部執行委員吉尾計、同高島勲が帰つて来たので右経過および話し合いの結果を報告したところ右両名も明白な反対の意見はのべなかつた。

(4) 従つて右の話し合いは集団欠勤の共同謀議ではなく、労使間にいわゆる三六協定が締結されていなかつたから、七月十九日に休日にあたつた人に違法な出勤をしないよう協力してもらおうときめただけである。

すなわち、三六協定が締結されていないときに使用者が出勤を命ずることは労働基準法三二条違反で、この違反には罰則(同法一一九条)もある。従つて組合幹部としては違法勤務が行われない様努力するのは当然のことである。公休出勤の拒否が同時に組合(支部または分会を含む)の一定の目的を達成するための手段として利用されたとしてもそのことの故に出勤拒否が違法性を帯びるものでもなく、争議行為になるものでもない。従つて組合規約に基く正式な機関決定によらないで、申請人らがこのことをきめたからといつて山猫争議実施の謀議となるものではない。

(5) ところで、七月一九日は、欠勤者が通常よりいくらか多いぐらいで、ダイヤの混乱もあつた。しかし、当日の欠勤者数は集団欠勤という程顕著なものではなく、またそれぞれ自己の都合で欠勤したものであつて申請人らの指令、指示もしくは働きかけによるものではないから、申請人らの責に帰せられるべきではない。当日欠勤者が通常よりいくらか多かつたのは、立入検査以後の労使間の緊張が組合員の勤労意欲に悪影響を及ぼしたためと推察される。

ダイヤの混乱についても、いくらかのダイヤの混乱は営業所ではむしろ常態的なことである。当日のダイヤ混乱が通常よりいくらか多かつたことは認められるが、それは前述のように欠勤者が多少多かつたこと、労働基準法違反の公休出勤が行われなかつたためであり、右の事由は前述するとおり申請人らの責任を問う理由にはならない。

ダイヤ混乱の根本的理由は、営業所の人員がもともと不足しており、このような人員不足を恒常化した公休出勤や残業で補う実情であつたため、公休出勤者が違法な勤務を止めるとたちどころにダイヤ混乱が招来されるところにあつたのである。従つてこれらの責任はいずれも申請人らに帰せらるべき性質のものではない。

(二)  七月一八日の欠勤強要等について(申請人蔵本、野村、竹中、大屋の各解雇理由(2))

右申請人らが被申請人主張の如き人に対して欠勤を強要し、強要しようとし、また欠勤をそゝのかし、扇動したことはない。

即ち前記話し合いの結果、分会役員は手分けして一九日の公休出勤者に前記のように協力を求めることになり、その協力を求めた経過は次のとおりである。

(1) 申請人蔵本は、同日午後八時頃営業所で古賀健二に会つたので営業局における話し合いの結果を話し、組合の方針に協力を求めたところ、同人は快く承知したものである。

(2) 申請人野村、大屋は共に、同日伊藤進、落合薫の社宅を訪れ、組合の方針に協力を求め、いずれも快く承知された。

(3) 申請人野村、大屋、竹中は、同日高島軍喜に同様協力を求め、快く承知された。

右以外の者に対して協力を求め、また協力を求めようとしたことはない。

(三)  七月二〇日の職場放棄について(申請人野村、竹中の各解雇理由(5)、申請人大屋の解雇理由(4))

当日は左のとおり分会委員会が開かれ、右申請人らに被申請人主張の如き職場放棄乗務命令拒否の事実はない。

(1) 労働協約第八条第七号、覚書第一項により、分会では毎月一回被申請人会社に届出ればあらかじめ被申請人会社の承認を得なくとも就業時間中に分会委員会を開くことができるのであり、申請人蔵本は七月一七日午後三時頃、営業所長に同月二〇日に分会委員会を開く旨届出ていたのである。

(2) 同月一九日午後四時頃森田所長は、申請人蔵本に二〇日の分会委員会の中止方を申入れたが、月一回の権利として認められた分会委員会であり、他に適当な日もなかつたので予定どおり分会委員会を二〇日に行いたい旨回答していた。その後営業局労務課から久保、広松両名が来て所長と同様の申入れをしたが予定どおり二〇日に行いたい旨申出てその再考を促し、営業局からの回答を待つていたが回答がなかつた。それで一九日おそくなつて分会では二〇日予定どおり分会委員会を開くことを決めた。

(3) その後午後一一時頃になつて営業局から二〇日の分会委員会は認められないと電話で連絡があつたが、そのときは分会としての最終方針を決めた後であり、今さら二〇日の予定を変更することは困難な事情にあり、且つ分会委員会は被申請人の承諾を必要とせず分会からの届出によつて自由に開くことができるものであるところから二〇日の分会委員会は予定どおり行うことが確認され、その代り二〇日は欠勤者がないよう組合としても努力しようということも申し合せた。

(4) 七月二〇日は午前八時四五分頃より営業所乗務員控室で分会委員会が開かれ、右申請人らは分会役員であるところから分会委員会に出席したものである。

(四)  右以外の解雇理由について、

(1) 申請人蔵本の解雇理由

イ 解雇理由(3)記載の事実は否認する。

ロ 解雇理由(4)記載の事実中森田所長、柏木主任を吊し上げた事実は否認する。

当日尾崎六男が家事都合なる理由で慰労休暇届を提出していたが、柏木主任が尾崎にどういう家事都合か聞きたゞそうとした。その様なことは今迄なかつたので尾崎が困り申請人蔵本に相談に来たため分会長として柏木主任に会いその様なことは聞く必要はないと意見を述べたに過ぎない。

ハ 解雇理由(5)記載の事実は否認する。

三井年弘、武井勉については、右両名は当日診断書を添えて休暇届を出し、被申請人会社はそれを受理していた。右両名は今井祇園の問題等組合の事が気にかかるので家に帰らず営業所で皆の話に加つていたこところ、被申請人会社は右両名に乗務してくれといいだした。そのときそばにいた申請人蔵本がそれぞれ事情があつて休暇をとつているのだろうから強制して乗せるわけにはいかんではないかといつたことはあるが、右両名に対する乗務命令を一括して拒否したことはない。

ニ 解雇理由(6)記載の事実は否認する。

(2) 申請人野村の解雇理由

イ 解雇理由(3)、(4)記載の事実は否認する。

(3) 申請人竹中の解雇理由

イ 解雇理由(3)記載の事実中欠勤届を出していたことは認めるが他は否認する。

申請人竹中は七月一八日に、一九日は水害の後始末のため慰労休暇をとる旨の届出をし、一九日は休んでいた。しかし組合のことが気になり、自宅が分会から約二〇〇米しか離れていないところから、ちよいちよい分会に顔を出し組合員との話に加わつていたが当日乗務の義務を負つていなかつたものである。

ロ 解雇理由(4)(6)記載の事実は否認する。

申請人竹中が七月一九日朝八幡、戸畑、到津電車各分会にニユースカーに乗つて行き、二〇日到津電車分会に行つたことはあるが、いずれも分会における紛争の経過を報告し、分会問題の有利な解決に支援を求める旨の発言をしたに過ぎず山猫争議を支援させようとしたことはない。

(4) 申請人大屋の解雇理由

イ 解雇理由(3)記載の事実は否認する。

七月一八日に、一九日慰労休暇をとる手続をして一九日は休んでいたのであり、当日は乗務する義務を負つていなかつた。組合の問題が気になり分会に出て来ていたので力丸、竹島両課長がなぜ休んでいるのか、休暇は認められないといつて乗務させようとしたが申請人大屋は診察券を渡し、休暇をとつた事情を説明し、乗務することは困難である旨申出ているのである。

四、要するに本件解雇は次のとおりの理由により無効である。

(一)  申請人らには、被申請人の主張するような就業規則違反の事実はなく、従つて、本件解雇は就業規則の解釈適用を誤つたものとして無効である。

(二)  申請人らはかねてから熱心な組合活動家であり、被申請人が主張している懲戒解雇事由はいずれも申請人らの正当な組合活動にほかならないものである。本件解雇は、申請人らがかねてから熱心な組合活動家であつたこと及び申請人らの正当な組合活動を理由とするものであるから労働組合法第七条第一号に違反する不当労働行為として無効である。

(三)  申請人らに仮りに被申請人主張の如き就業規則の各条項に該当する事実があつたとしても、これらはいずれも軽微な違反に過ぎないからこの程度のことを理由に労働者にとつて死刑の宣告にも等しい懲戒解雇処分をすることは懲戒権の裁量を誤り、かつ就業規則第五八条但書の解釈適用をも誤つたものである。従つて本件解雇は、就業規則の右条項の解釈適用を誤り、かつ懲戒権を濫用したものとして無効である。

第五、疎明<省略>

理由

第一、被申請人が、肩書地に本店を、小倉市砂津三六〇番地に営業局を、福岡市久留米市飯塚市にそれぞれ営業部を有し、陸上運輸等を営業目的としている株式会社であり、申請人らは、被申請人に期限の定めなく雇傭されている従業員であつたが、被申請人より昭和三四年一二月二日付で懲戒解雇の意思表示をうけ、その後従業員として取扱われなくなつたこと、申請人らは主として被申請人の従業員で組織している組合の組合員であつたことはいずれも当事者間に争いがない。

組合は単一の労働組合であり、昭和三四年七月頃の組合員数は約一二、〇〇〇名であつたこと、議決機関として大会、中央委員会があり、執行機関として執行委員会、中央執行委員会があること、福岡、久留米、北九州にそれぞれ地区支部がおかれ、北九州地区支部の組合員数は昭和三四年七月当時約三、三〇〇名であつて、支部には議決機関として支部委員会、執行機関として支部執行委員会があり、各職場には分会がおかれ、分会には決議機関として分会大会、執行機関として分会委員会(その構成員一四名)があつたこと、更に中央、支部各労使協議会があり、又各支部毎に必要に応じて開かれる分会長会議があること、以上の機関の権限、機能が、申請人ら主張のとおりであること、昭和三四年七月当時の申請人らの組合役職がそれぞれ申請人ら主張のとおりであったこと(申請人竹中が分会調査部長、同大屋が分会書記長である点を除く)は被申請人の明らかに争わない事実でありこれを自白したものとみなす。そして、申請人宮園本人の供述によると、当時到津自動車分会所属従業員は約一八〇名であつたことが認められる。

成立について争いのない乙第六号証、証人竹島守の証言、申請人宮園本人の供述によると、支部労使協議会は福岡、北九州及び久留米に設けられ、ダイヤに関する事項等を附議事項とし、組合側は支部執行委員全員と分会長あるいは中央委員の中から予め選ばれた労使協議委員、会社側は課長、労務課員等が構成員となることが認められる。

また証人竹島守、森田政行の各証言、申請人宮園本人の供述を綜合すると、森田所長も組合員であつた関係上、従来日常の業務について問題が起きたときは、まず所長と分会役員の間で話合うが、その間で調整がつかないときは、分会長から支部に上申し、さらに支部の労使協議会にとり上げて貰つて、協議し、調整する慣行になつていたことが認められる。

第二、事件の経緯

一、七月一八日に至る迄の経過

証人小川治夫、森田政行、竹島守の各証言、並びに申請人宮園、刀根、野村の各本人尋問の結果を綜合すると次の事実が認められる。

(一)、昭和三四年七月一四日午前五時三〇分頃より九時頃迄の間被申請人会社本社自動車営業部営業課長小川治夫等約一〇名が予告なしに営業所の業務監査(立入検査ともいう)を行い、営業局において、営業局矢頭自動車部長、力丸運輸課長、森田所長は、小川課長から監査の結果について講評を受けた。その際指摘を受けた主な事項は次のとおりである。

1、遅刻者が多い、点呼、出庫状況が悪い。

遅刻の取扱いについては、労働協約(成立に争いのない乙第六号証)第八九条によると運行開始前に行う諸準備等にあてられる附帯労働時間は三一分とされ、運転手車掌共運行開始より三一分前に出勤しなければならないことになつているが、当日の調査対象六五名中二五名が遅刻し、道路運輸規則により定められた運行管理者の出発前の点呼がきわめて形式的になつている。定時に出庫した自動車は調査対象二八台中八台に過ぎなかつた。これらの点を改善する。

2、慰労休暇の取扱いが間違つている。即ち原則として勤務表が作成される三日前迄に届出ることが必要である、直前の届出は真に已むを得ない事情ありと認め運輸業務に支障ない限りにおいて認可すること。

当日運行管理者のところへ電話で慰労休暇を頼んできていたのを、管理者が理由もきかず簡単に受付けていたが、この取扱いを改める。

3、出勤禁止者を勤務宿泊所に宿泊させているが、これを禁止すること。

勤務宿泊所は、夜勤、早朝勤務の続く乗務員が疲労防止のため勤務宿泊を命ぜられたときなどに利用する施設であるのに、当時申請人蔵本は運転免許の切換を怠り資格を喪失していたため出勤禁止になつていながら、勤務宿泊所に宿泊することが多かつたので、本人に注意する。

4、バス車輛のドア開けを担当運転手にさせること。

従来営業所においては、他の営業所と異り、バス車輛のドアの鍵が不足勝であり出勤してきた運転手が各自担当車輛のドアを開けると混乱し、始業点検に差支えが生じる恐れがあつたところから、夜警員が予め全車輛のドアを開けることになつていたものであるが、他の営業所と同様に、車毎の鍵をつくつて運転手が各自あけることに改める。

5、分会掲示板の位置が悪く大き過ぎること。分会旗を常時掲揚させないこと。

分会掲示板が操車室の横、乗客待合所の丁度裏壁の目立つ場所に大きな場をとつて掲示されていたので、これを乗務員の休憩室に移す。組合分会旗もスト中でもないのに一番目立つ場所に掲げられていたのでこれも改める。

森田所長は、営業所に帰り直ちに申請人野村に対し小川課長からの指摘事項を告げ、研究会でもして、いい営業所に立直るよう努力しようと話をした。

申請人野村は、その時組合本部にいた申請人蔵本に電話連絡の上分会内で右指摘事項について検討を加えた上遅刻扱いについては従前一〇分位の遅刻は大目にみていた、慰労休暇については当日申請しても認めていた等従来の諸慣行を廃止し、分会長の勤務宿泊所宿泊禁止や分会掲示板、分会旗の問題は会社が組合運動にまで干渉するものであるとして分会長から支部に上申し、この問題を支部労使協議会に持ち込むことになつた。

(二)、七月一五日午後二時頃から約二時間にわたり、右問題について営業局において緊急支部労使協議会が開かれ、会社側は営業局矢頭自動車部長、力丸運輸課長、竹島労務課長、高木車輛課長、山内人事係長等が、組合側は西谷支部委員長を始めとする支部執行委員、申請人蔵本(当時支部労使協議会の構成員になつていた)が出席し、なお森田所長、申請人野村、大屋、竹中が参考人として列席した。その席上、組合側からは前記分会の立入検査問題に対する見解と、会社側の立入検査の際の態度について強い不満が述べられたが、結局、何処の営業所でもやることであるということで、小川課長に再度営業所に来て貰つて業務懇談会を開き、是正すべき点については組合と話し合うことにする。その時期については、申請人蔵本が同月二四、五日に開かれる私鉄総連大会に代議員として出席することになつていたため、同人が帰つた後適当な日を決めるということで、労使意見の一致をみた。従つて、前記立人検査の実施は小川課長との話し合いにもちこされることになつた。(なお申請人等は右協議会においては、会社側は立入検査の指摘事項について即時実施を求め、小川課長との話し合い迄従来どおりの慣行に従うことを主張する組合側と意見が対立したまゝになつた旨主張し、申請人宮園、野村の各本人尋問の結果によると右主張にそう部分があるがいずれも措信し難く、他に前記認定を覆えし、申請人主張の事実を認めるに足る疎明がない。)。

(三)、同日午後、森田所長が申請人蔵本に例年の如く同月一九日には営業所より今井祗園(行橋の今元村に今井祗園の夏祭りがあり、各営業所に応援車が割当られる。)臨時自動車一台を出す旨話したところ、従来は余り問題なく右指示(右所長の分会長に対する話を通告と解すべきことは後記認定のとおりである)に応じていたに拘らず同申請人は人員、車輛共に不足し無理な勤務をされてはいけないことを理由に拒絶した。森田所長としてはその処置に困り、支部労使協議会乃至は会社側と分会役員との話し合いに委ねるべく、営業所永山主任を通じて営業局にこの旨連絡した。

二、七月一八日の状況

弁論の全趣旨によりその成立を認めることができる乙第三号証(到津自動車問題合同調査委員会の合同調査記録)証人御手洗光雄、同森田政行、同竹島守、同高島軍喜、同古賀健治、同原昭一、同森若肇、同船木清吾、同武久嘉彦の各証言並びに申請人宮園、同刀根、同野村、同蔵本、同大屋、同竹中の各本人尋問の結果を綜合すると次の事実が認められる。

(一)  今井祗園の臨時拒否の交渉経過

七月一八日正午頃申請人蔵本からの電話連絡を受けた申請人宮園は、営業局労務課長竹島守に対し営業所から今井祗園に臨時応援自動車一台を出すこと(以下今井祗園の臨時という)について話し合いを持つことを申込み、午後三時頃より営業局会議室において、会社側は営業局矢頭自動車部長、力丸運輸課長、高木車輛課長、竹島労務課長及び森田所長らが、組合側は申請人宮園、同蔵本、同野村、同大屋が出席して今井祗園の臨時について話し合い(正式の労使協議会ではない)が行われた。その席上申請人らは、分会としては立入検査以来会社に対し感情的になつていて、人も車も足りないから今井祗園の臨時に協力することはできない。すなわち、営業所においては一九日貸切自動車三台の予定があり人員車輛共不足しているから今井祗園の臨時は出せない旨主張し、会社側は、立入検査の問題は一五日の労使協議会により一応結論が出ている。営業所の人員車輛の配置状況からは、今井祗園の臨時を出すことは可能な状態にあり、また、例年運行している臨時であるし、会社としては分会が了解しなくとも予定どおり臨時一台を出す旨主張し、両者間の主張は対立したまま午後五時過ぎ話し合いは一旦打切られた。

それより先申請人宮園が不在の支部執行委員に対し招集をかけており、それに基き参じた申請人刀根を加えて、午後六時頃より再び組合側の申込により営業局応接室において話し合いが行われたが、前同様意見の対立をみたまま約三〇分で打切られた。その頃分会組合員約二〇名がなりゆきをきずかつて営業局に集まつて来たので申請人宮園、同蔵本、同野村らが経過報告をして右組合員はそのまま引き上げた。

(二)、集団欠勤の共同謀議

右二回目の話し合いが打切られた後、申請人宮園、同刀根、同蔵本、同野村、同大屋が営業局応接室に残り、分会の御手洗光雄(支部委員)和田稔(分会委員)及び申請人竹中を加え、その対策を協議した結果、今井祗園の臨時を拒否するため、戦術として集団欠勤をすることを計画し、そのためには、

(1) 協力する者には慰労休暇なり、病気なり、何なりできるだけ理由をつけて休んで貰う。

(2) 一九日の公休出勤者七名(古賀健治、高島軍喜、伊藤進、落合薫、岡本政雄、古賀親義、松山春男)に対しては当時組合と会社間に労働基準法第三六条による休日時間外勤務協定(いわゆる三六協定)がないことを根拠に労働基準法を守る趣旨において出勤せずこれに協力するよう要請することをきめた。

そしてそれをなすことによつて自らそれに同調する組合員のあることが予想される当時の状況であつた。

(三)、欠勤強要等

(1) 申請人蔵本は、七月一八日右謀議の前か後に営業局に集まつて来ていた分会組合員約二〇名に対し「理由があれば無断欠勤にはならないから理由をつけてどんどん休め」と云い、同日夜、申請人らはその後手分けして公休者に協力を要請して廻つたが、申請人蔵本は御手洗と共に営業所に帰り、午後八時頃同所にいた古賀健治に対し、「組合の方針に協力すると思つて明日公休出勤しなくてゆつくり休んでほしい」旨話し、穴見秀夫(分会委員)に対し、午後一二時頃営業所において「明日休んでくれないか」と話した。

(2) 申請人野村、同大屋は落合薫、伊藤進の、申請人野村、同大屋、同竹中は高島軍喜の自宅を訪問し、いづれも一九日は組合の方針に協力して公休出勤しない様話した。申請人竹中は営業所において、勤務を終了した古賀健治に、明日の公休出勤は適当な理由をつけて休んでくれと、同様大井嶋吉(分会委員)に会社との交渉経過を告げた上、一九日は休んでくれと云つた。

(3) ところで、当時分会の雰囲気として、前掲乙第三号証、証人森田政行、原昭一の証言を綜合して認められるところは、分会長からすれば組合員は組合のやることには「つうといえばかあと通ずる」ものがあり、反面、組合員からすれば、分会役員に協力しないと何かにつけ統制違反だ除名だといわれるから、分会役員のいうことには後難を怖れて従うという空気が支配的であつた。そこで申請人らが、前記のような行動に出れば、これを受けた者は後難を怖れて、一九日の欠勤について協力を約したものであつた。

三、七月一九日の状況並びに申請人らの行動

前記乙第三号証、証人森田政行、同原昭一、同武久嘉彦、同船木清吾、同竹島守の各証言、申請人蔵本、同野村、同大屋、同竹中の各本人尋問の結果によると次の事実が認められる。

(一)  集団欠勤

七月一八日午後営業局における今井祗園の臨時の交渉が決裂した直後、申請人蔵本と野村が「皆明日は休ませよう。」と話しているのを聞いた森田所長は、一八日夜、翌日の事態を予測し、永山主任に慰休届は受付けないように指示していた。七月一八日夜より一九日朝にかけて病気、家事都合を理由に慰労休暇届を出す者、病気欠勤届を出す者、公休出勤に当りながら出勤しない旨届出る者等が続出した。ところが、一九日になると、それぞれ病気や家の都合を理由に欠勤や慰休を申出た分会委員達は営業所につめかけ竹島労務課長、力丸運輸課長、高木車輛課長らがこれら欠勤届を出して営業所につめかけていた分会委員等に対し、通常運行の系統を倒さぬよう懸命に乗務してくれる様要請したがいずれも乗務を拒否した。申請人竹中は一八日家事の都合(居宅修理)を理由に、申請人大屋は病気を理由にそれぞれ欠勤届を出していながら、一九日は営業所に出ており、これら申請人らに対しても、乗務するように、所長あるいは課長らから命ぜられたが、乗務しなかつた。また申請人大屋は一九日朝出勤して来た原昭一に対し「立入検査と今井祗園の問題で紛糾しているから分会委員として協力して休んでくれ。」といつたところ、原は分会大会を開いてやるべきで、一九日じやなくてもいいじやないかということで協力を断り、同人は勤務についた。しかしながら、結局当日は公休出勤に当つた者七名のほか病気家事の都合を理由に合計二六、七名の欠勤者が出て、今井祗園の臨時は出すことが出来なくなつた外、通常運行のダイヤ七系統が倒れるに至つた。

(二)  他分会に対する扇動

(1) 七月一九日午前一時過ぎ、申請人蔵本は小倉自動車分会長に電話をかけたが、同人が不在で木屋主任が電話口に出た。その際、申請人蔵本は分会では業務監査のことでもめていた一九日は人員が足りず今井祗園の臨時が出なくなる。会社の方から小倉自動車分会に今井祗園臨時の命令が出たら小倉自動車分会もこれを拒否して到津自動車分会に協力してほしい趣旨のことを木屋主任に依頼した。

(2) 同日午前九時過、申請人野村は小倉自動車分会長久保園某に電話し、同人に対し分会では今井祗園臨時を出すことを拒否したから小倉自動車分会もそれに協力して今井祗園え臨時自動車の応援を拒否してほしい趣旨の依頼をした。

(3) 同日午前六時過ぎより午前九時三〇分頃迄の間に、申請人竹中は同蔵本、同野村の依頼により穴見秀夫と共にニユースカーにて八幡戸幡各自動車、到津電車の各分会を廻り、マイクで分会での紛争の経過報告をした上、今井祗園の臨時を拒否したことにつき、到津自動車分会は孤軍奮戦しているから協力してくれと分会の行動の支援協力方を要請した。

(4) また申請人竹中は、二〇日にも午前一〇時頃和田と共に到津電車分会に行き、分会委員会開催中の同分会員に対し、分会では一九日二八名が集団欠勤した。その結果ダイヤが午前四、午後三系統倒れた。これは支部と緊密な連絡をとつて戦術としてやつたものであり、到津電車分会において支援態勢をとつてほしいと要請した。

(三)  森田所長等に対する吊し上げ並びに乗務命令拒否

同日午後三時頃柏木主任が尾崎六男(分会委員)に、欠勤届の理由に家事都合とあるのはどういうことか、と尋ねたことを尾崎より聞き知つた申請人蔵本は、柏木主任に対しその様なことを聞く必要がないと数分抗議した。その後、当時午後二時頃より営業所二階会議室には申請人蔵本、野村、竹中を始め三井、武井、穴見、尾崎ら殆んどの分会委員が集まつていたのであるが、申請人蔵本は森田所長と柏木主任を共に二階会議室に呼び、柏木主任が尾崎の欠勤理由をきいたことについて烈しく抗議し、吊上げを行い、ために柏木主任は顔面蒼白になる程であつた。その際森田所長はそこに集まつていた人達に対し、午前中ダイヤが四本も倒れ、午後も可成り倒れそうだから午後勤務の人は乗務してほしい旨云うや、申請人蔵本、野村が「今日はみんな届を出しているから乗れない」といつて、三井、武井、竹中、穴見、尾崎らに対する業務命令を拒否した。

以上の事実を認めることができ(前掲各疎明中、右認定に反する部分は信用せず、ほかに右認定を覆えすに足る疎明はない。)、右認定以外に被申請人が懲戒解雇事由として主張する事実はこれを肯認できる疎明はない。

第三、山猫争議の主張について

一、七月一九日公休出勤にあたつていた者七名を含め計二六、七名が欠勤したことは前記認定のとおりである。そこで申請人らは当時組合と会社との間には労働基準法第三六条に基く時間外、休日労働に関するいわゆる三六協定が締結されていなかつたから、七月一九日公休者が出勤拒否をすることは正当な権利行使であつて、争議行為でないと主張し、被申請人は集団欠勤を目して争議行為であると主張するからこの点について判断する。

まず、一せいに公休をとるという行為も、その行為が組織的集団現象として業務の正常な運営を阻害することを目的として行われ、且つ現実に業務の正常な運営を阻害する結果が発生したときは争議行為と解すべく、この場合の業務の正常な運営とは、それが特に悪質な法規違反でないかぎり労使関係における現実の慣行的事実を考慮した上で期待される通常な業務を考えるべきものと解する。

当時いわゆる三六協定が書面に作成され、労働基準監督署に対する届出がなされていなかつたことは被申請人の明らかに争わないところであるからこれを自白したものと看做す。然るときは、法律的には被申請人は労働者に休日労働を命ずることは許されないから、出勤拒否は正当な権利の行使であるとなす申請人らの主張は一応尤もにみえる。然しながら、成立について争いのない乙第一〇号証、証人竹島守、同樺島義男の各証言、申請人宮園、同刀根の各本人尋問の結果によると、被申請人会社における三六協定締結の実状は、先ず会社より資料を附して三ケ月分の協定提案がなされ、組合本部は支部を通じ、分会の実情を調査の上一ケ月毎に審議して会社本社との間に協定し、同時にこの旨を組合本部から支部へ、会社本社から営業局へと、それぞれ連絡し、これに基いて営業局と組合支部が協定書を作成の上、所轄官庁えの届出がなされていたものであること、書面作成は常に遅れがちでありその場合においても常に日附を遡及して書類の作成届出がなされていたこと、書面作成迄の期間にあつても組合は本部から指令があれば、支部が口頭で営業局に、会社の協定提案に対する事実上の了解を与えることにより休日出勤が行われていたこと、営業所においては車輛運行に要する必要人員は配置されていたが、出勤率が悪く、また当日になつて、欠勤を届出ることが多かつたこともあつて、自然公休者何人かに廃休といつて出勤を命ずることが日常行われ、而もこの廃休によつて、営業所の通常の業務が支障なく行われ、この廃休者が休んだ場合ダイヤ確保に支障を来す状態にあつたことが認められる。(前掲疏明によると、本件の場合も五月二九日会社から三ケ月分の提案がなされており、七月一四日頃申請人刀根から営業局の担当者に八月度の休日出勤については従来どおりやつておつてよろしいという電話があり、七月二八日に書面で三六協定が締結され、八月二日、七月一一日に日付を遡らせて所轄官庁えの届出がなされた)

かゝる労使間の現実の慣行を考慮した上で七月一九日の公休出勤者の一せい欠勤を考えると、右公休出勤者の意図が、一応今井祗園の臨時の運行阻止であつたこと、その他の者の集団欠勤とあいまつて今井祗園の臨時ならびに通常ダイヤ七系統が倒れたことは前記認定のとおりであるから、公休出勤者の一せい欠勤は組織的に会社の業務の正常な運行を妨害したということにおいて、争議行為として行われたものと断ぜざるを得ない。

また、一せいに慰労休暇届を出した者については、休暇の前日または当日になつて今井祗園の臨時拒否のため一せいに組織的集団的になした慰労休暇の請求を会社が、承認せず、業務の正常な運営を妨げるものとして拒否したことは前記認定の事実からうかがわれ、また、病気または風水害の事故を理由に欠勤届を出したものも、前記認定の事実により明らかなとおり、それぞれ今井祗園の臨時拒否のために虚偽の理由を設けて欠勤届を出したものと認めざるを得ず、結局これらの行為も実質的には組織的にストを行つたと同様にみざるを得ない。

従つて以上本件集団欠勤は、欠勤の理由が、公休出勤拒否、慰休、病欠、事故欠等、そのいずれにあつたかを問わず、すべて、争議行為として行われたものと判断する。

二、然して右争議行為は組合の指令に基くものでないことは前記認定により明らかなところであり、而も組合の組織において、中央、支部、分会の関係が、単一組合として有機的に組織され、分会は組合全体の組織の中において組織としての独自性が稀薄であり(右判断は、甲第一、二号証に規定せられる組合各機関の組織権限を検討して容易に導き出される。)、かかる分会において、右争議行為は支部委員および分会委員の一部の者の計画に基いて分会員の一部の者が行なつた争議行為であるから違法(山猫争議)であることは明らかである。

また、右争議行為の当面の目的が、今井祗園の臨時輸送拒否にあつたことは前記認定のとおりである。そこで、この問題が分会独自の問題として、分会ないし分会委員に会社と交渉の権限があつたかどうかについて考えると、申請人宮園、刀根、野村(第一回)各本人は今井祗園の臨時輸送は協約第九八条にいう組合(分会)の了解を要する臨時ダイヤであるのに拘らず、分会は了解を与えていないから、この輸送を命ぜられてもこれを拒否すのは正当であると供述するけれども、証人小川治夫、森田政行、原昭一、力丸利男の各証言、乙第六号証(労働協約)を綜合すると、今井祗園の臨時輸送は協約第九八条にいう臨時ダイヤに属さず、いわゆる操車運転であつて、この輸送業務には組合の事前の了解ないし組合との協議を要しない事項であることが認められる。尤も証人浜永文男、原昭一の証言によると従来、今井祗園の臨時輸送については所長から分会長に予め臨時を出す旨の話をするのが慣行であつたことが認められるけれども、右の話が、協約第九八条の規定と同趣旨の了解を求めていた趣旨の行為であることを認めることのできる疏明がなく、却つて前掲証言により認められる従来この臨時輸送が問題になつたことのないのに照すと、右所長から分会長えの話はむしろ通告と解せられる。

またかりに右今井祗園の臨時輸送を申請人らのいう臨時ダイヤと解しても、協約の規定に照すと、会社が右今井祗園の臨時については組合が了解すべき事項であつて、分会ないし分会の一部の者の同意を要するものと解することはできない。

以上要するに、今井祗園の臨時の拒否について分会の一部の者に会社と交渉する権限があつたものとは認められず、前記認定の今井祗園の臨時の拒否について一八日申請人らが会社と交渉を行なつたことも団体交渉とは認められない。

従つて、前記今井祗園の臨時拒否の交渉の決裂を理由に、分会員の一部が右争議行為に出たことを正当化することはできず、いづれにしても前記争議行為は組合員の行う集団的行動を正当化するに必要な基盤を欠くものといわざるを得ない。

然るときは、本件違法争議行為を企画指導した者は、その行為につき、会社に対し責任を負うべきものというべく、本件争議における申請人ら個人の違法行為についてもその責任は免れないことは当然である。

第四、山猫争議の指導

申請人宮園、同刀根が支部執行委員、同蔵本が分会長の地位にあつたことは当事者間に争いがないので当然に組合活動の指導的立場にあつたということができ、同申請人らが右共同謀議に参加していること、及び前顕乙第三号証、証人原昭一の証言、申請人刀根、同蔵本の各本人尋問の結果により認められる同申請人らが営業所にいたことなどにより、同申請人らは右山猫争議について指導的役割を果したものと推認することができる。

第五、就業規則の適用について

一、以上要するに、申請人らの本件懲戒解雇該当事実中右の各行為を前記認定の範囲において、認定することができる。

(一)  いわゆる山猫争議の共同謀議および指導(事実摘示記載各申請人らにつき各(1)の行為)

(二)  欠勤をそそのかし、扇動し、また欠勤強要ないし欠勤を強要しようとした行為(同記載申請人蔵本、野村、竹中、大屋につき各(2)の行為)

(三)  虚偽の理由による欠勤、乗務命令拒否等(同記載申請人蔵本の(5)、申請人野村の(4)、申請人竹中の(3)、申請人大屋の(3)の行為)

(四)  他分会の扇動(同記載申請人蔵本の(3)、申請人野村の(3)、申請人竹中の(4)(6)の行為)

(五)  森田所長に対する吊し上げ(同記載申請人蔵本の(4)の行為)

二、然るときは右(一)と(二)(そそのかし扇動したこと)の申請人らの行為は、就業規則(乙第七号証)第五八条第一一号「前条各号及び前各号に掲げる行為を企て、共謀し、そそのかし、あおり又はたすけ」、第五七条第四号、「正当な理由なく会社の指示に従わず又は濫りに職場を離れたとき」、第一四号「その他前各号に準ずる行為のあつたとき又は服務規律に違反する行為のあつたとき」に該当し、(二)(そそのかし扇動を除く)(五)の行為は第五八条第二号「他の社員に対し暴行脅迫を加え又はその業務を妨げたとき」に、(三)は、自身の欠勤業務命令拒否につき第五七条第一号「正当な理由なく無断欠勤したとき」及び前記第四号ならびに第五八条第三号「職務上の指示に不当に反抗し又は越権専断の行為をなし職場の秩序を紊したとき」に、他人の業務命令拒否は右五八条第三号に、(四)は第五七条第四号第一四号、第五八条第三号第一一号に、それぞれ該当する。然して申請人らの行為は、被申請人の事業が公益事業たる運輸事業であること、申請人らの組合における立場、その他諸般の事情を考慮すると、「その情状が重いとき」に相当する。

よつて、被申請人が以上就業規則の各条項を適用してなした本件懲戒解雇は適法である。

第六、申請人らは、本件解雇は不当労働行為として無効である旨主張するが右事実を認めるに足る疎明はなく、被申請人は申請人らの前記違法争議行為を主たる理由に解雇したものと推認し得るのであるから、右主張は採用できない。更に懲戒権濫用の主張は前段説示により明らかな如く、右主張も亦理由がない。

第七、よつて申請人らの主張は結局被保全権利についての疎明がなく、しかも保証をもつてこれに代えるを相当とする場合でもないから申請人らの申請を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中池利男 野田愛子 吉田訓康)

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